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イギリスでの助産に関するコラムです


by babyinuk
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見た目は正常な赤ちゃんなのに

14時22分
産科病棟で一人の生命が誕生した。
予定よりも一週間早く生まれたものの、正常分娩による出産でアプガー1分、5分で6,9とほぼ問題なかった。
体重2525g、かわいい女の子だった。
外見上何も問題なく見られ、両親共に喜んでいたのだが。

 翌日の18時
お母さんのナースコールによって助産婦が病室へと駆けつけたのは出産後16時間が経過した時だった。
指を強ばらせ、全身で震えているような動作をしている。
Generalized Seizure(全身性の発作)とFocal Convilsions(痙攣)が見られた。
急遽Drが呼ばれ、痙攣発作であることを確認した彼はPhenobarbital(抗てんかん薬)を投与した。

母親は顔をこわばらせながらその様子を見守っていた。
Drは母親に今起きたことの説明を行なった上で、血液のサンプルを採った。
血液をEmargencyでヘマトロジーに送った。
助産師は赤ちゃんを今いる一般病棟からNICU(新生児集中治療室)に移る準備に追われた。

 二時間後
データーによると、マグネシウムが相対的に低い。BMSは正常値だった。

 てんかん発作が起きてから23時間後
注射した右足から血液混じりの滲出液が確認された。
それは老人の床ずれに見られる浸出液を連想させるものだった。

『 (どうして赤ちゃんから・・) 』
お母さんは今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
FBCと凝固がチェックされた。
Thrombocyte(血小板)は221、APTTとPTは適度の範囲を超えて遅延していた。
つまりHemorrhagic Disease(出血性疾患)が疑われ、その対処としてFFP15mgと同様にビタミンKを投与した。

 数分後
ACT headを施行した結果、二箇所のIntracerebral(大脳の)出血が明らかだった。Ventricle(脳髄)への空洞に結合していなかった。
血液凝固因子分析がやってきた。それによると次のような結果だった。
Factor  Ⅹ    2%
Factor ⅠⅩ  98%
Factor  Ⅴ  135%
Factor Ⅱ    70%
明らかにFactor Ⅹ のパーセンテージが低い。
FactorX因子欠損の診断が妥当とされ、Bilateral intracerebral hemorrhage(bleeding)両側大脳出血も同時に診断された。

外見上は正常であっても、こうして赤ちゃんは何らかの疾患を小さな体の中に抱えて生まれ、結果的にNICUに運ばれてくるケースが多い。

何の問題もなく健康に産まれることが、当たり前の出来事でないと改めて思い知らされる。
この赤ちゃんも両親と共にすぐに家に帰ることができず、しばらくの間NICUで治療を続けることになった。


赤ちゃんはたくさんの管が四肢に取り付けられたまま、今日も静かに眠っている。
by babyinuk | 2004-08-29 11:33 | 助産